ブロックチェーンと分散型台帳に関する本を朝倉書店さんから出版いたします。この本の紹介を全4回で行うつもりです。前回は「プライバシーと匿名性」の紹介をさせていただきました。
第3回である今回は、6章「ブロックチェーン/DLT の未来」の中から、「ネイティブトークン流動性」という項の一部を紹介をします。
この項でご説明したいことを端的にまとめると、
「トークンの値上がりを期待するなら誰もそのトークンを使わない.つまりその価値は下がる.」
という一見すると矛盾するような単純な事実です。このような状況で需給バランスによって価格が安定すると想像するのは、金融システムや経済動学を理解していない人の妄想にすぎません。そして、トークン価値が安定しない限り、決済システムとしては利用できません。(表立って決済できない取引にだけ使われるアングラな決済インフラにしかならないでしょう。)本書では、この点をサイドチェーンにおけるトークンのペッグを例に説明しています。この項は本書の中でも非常に難解な項だと思います。
以下は本文からの引用です。
たとえば,メインチェーン上のトークン総量が一定でネイティブトークンをペッグするサイドチェーンが増えていった場合,メインチェーン上で使用可能なネイティブトークン総量がどんどん減っていってしまう.結果としてそのトークンにプレミアムがつきすぎてTX を処理するコストが高くなりすぎてしまう.その結果(メインチェーンでもサブチェーンでも)TX が処理されないということが発生する.
(中略)
中央銀行は決済システム上にあるトークン総量をコントロールし,その結果としてそのトークン(通貨)の価値を安定させるためだけに生まれた組織である.流動性を提供する側が適切なコントロールをしなければ,流動性危機というのは必ず起こる.それは歴史が証明している.ネイティブトークンが枯渇し,サイドチェーンを構築できない事態が発生すれば,これはシステム障害を起こしたも同然である.そして,スマートコントラクトによってすべてが自動化した世界なだけに,一度起きたこの種の障害は,同じシステム上で頻発することになってしまうだろう.
以上、6章から、「ネイティブトークン流動性」の紹介でした。来週は同じく6章から「量子耐性の実現と量子コンピュータ技術の利用」という項を紹介しようと思います。
個人名が表紙に乗る本を出版するのは初めての経験です.皆さん是非手に取っていただければと思います。(予約していただけるなら⇒Amazon 楽天)