「分散型台帳テクノロジー」出版によせて(2/4)~プライバシーと匿名性~

YuIku
4 min readAug 14, 2020

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ブロックチェーンと分散型台帳に関する本を朝倉書店さんから出版いたします。この本の紹介を全4回で行うつもりです。第1回は本の構成と冒頭部分を紹介しました。

第2回である今回は、4章「プライバシーと匿名性」の紹介をします。

最初に,4章の構成について紹介します.

4章「プライバシーと匿名性」の構成

4. 1 Bitcoin の革新性とプライベート/コンソーシアムチェーン

4. 2 プライバシーと匿名性

4. 3 個人情報と消す権利

4.1節ではハッシュチェーンに始まるブロックチェーンの進化を紐解いた上で,プライベート/コンソーシアムチェーンの立ち位置を明確にしています.PoWを取り入れていないプライベート/コンソーシアムチェーンは,ある意味で技術的退化にも見えますが、インセンティブ設計の観点に立てばBitcoinの後継としての正統的な発展の姿でもある事を示します

4.2節では,プライバシーと匿名性の違いを明確にした上で、様々なブロックチェーン/分散型台帳技術の上でプライバシーや匿名性がどう実現されるのかを説明しています。4.2節の一部分を後ほどご紹介します。

4.3節では「ブロックチェーンは消せない」という誤解に対してGDPRの文言と従来型システムの技術的原点にさかのぼって、この誤解を解いています.

次に,4章の中から2つの部分をピックアップしてご紹介します。

①4.2節の冒頭部分.

最初に世に出たブロックチェーン技術は,参加者全員が等しくすべてを知る必要があった.しかし,個人の預金残高を全員が平等に知る必要があるだろうか? もしくは,そんな銀行にお金を預けたいだろうか? 答えはNo だ.プライバシーを守る.これはブロックチェーンに必要な要件であるし,実現可能な要件である.そして,匿名性がないこともまた,重要な要件だ.ある会社が売上をすべてBitcoinの匿名アカウントで受け入れていたとしよう.その売上が誰のものであるかはわからない.結果,この会社は税金を払う必要がなくなる.また,犯罪者やテロ組織からすれば,匿名性のある口座があれば,より非合法活動がやりやすくなる.税収がなくなり,非合法活動を助長する技術が,世の中を変える技術になるわけがない.
ということで,まずは2 つの事実をお伝えしたい.

・ブロックチェーン技術もプライバシーを守ることができる.
・プライバシーを守ることと同じくらい,匿名性がないことも重要である.

この事実を理解することが,本節の目的である.

②4.2節で示される、プライバシーと匿名性の定義

プライバシーとは,ある主体に対して,主体の行った行動,主体に属する情報が検索できないことと定義する.逆に,匿名性とは,ある行動/情報に対して,行動の主体,情報の持ち主を特定できないことと定義する.

例を示そう.まずはプライバシー.

芸能人のプライバシーを考える.当たり前だが,芸能人は,その人物の存在自体はよく知られている.メディアに登場すれば容易にその人物の行動や情報は検索できるだろう.だが,その芸能人(人)が今朝,何を食べたのか(行動),一体いくらの貯金を持っているのか(情報)を簡単に検索できたとしたら,これはプライバシーがないということになる.「人→行動/情報」これがプライバシーである.

逆に匿名性の例を示す.

匿名掲示板の特徴は,書き込まれた投稿(情報)を,誰が書いたか(人)わからないことである.つまり情報から人を検索できない.「行動/情報→人」これが匿名性である.

以上、4章の紹介でした。来週は6章「ブロックチェーン/DLT の未来」の中から6.4.2項「ネイティブトークン流動性」について紹介しようと思います。

個人名が表紙に乗る本を出版するのは初めての経験です.皆さん是非手に取っていただければと思います。(予約していただけるなら⇒Amazon 楽天

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YuIku

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